・の第一印象?
何故そのような事を言わねばならない。
・・・だがどうしてもと言うのであれば教えよう。
正直、面白い・・・便利な駒だと思ったよ。
会議を終了し本日使用したフロッピーを箱に入れて自室へ向かう途中、小柄な少年が通路の角を勢い良く飛び出してきた。
無言で脇に避けて過ぎ去ろうとしたが、勢い良く飛び出してきた少年は小柄な所為か上手く受身も取れず、そのまま床へと見事なダイビングを見せた。
グリーンの軍服に白い白衣・・・医局の人間、インターンか?
「い・・・たたたっ・・・」
その軍人らしからぬ動向に何故か気を取られ、そのまま床に倒れこんでいる人間をじっと見つめる。
「すまんな。先を急いでいたもので・・・怪我はないか。」
「は・・・はい。」
ぶつけたらしい鼻を擦りながら顔を上げ私と目が合った瞬間、その表情が一気に凍りついた。
「クックルーゼ隊長!!失礼致しましたっ!!」
体の痛みも忘れて軍での規律どおり上官への敬意を表し、即座に敬礼をするその態度は中々潔い。
その人物に興味を抱き、自分が手にしていたフロッピーの入ったケースを気付かれないようワザと床に落とすとそこから大量のフロッピーが床に散らばった。
そのまま少年の反応を見ていると、再び即座に反応しすぐに落ちた荷を拾い始めた。
「お荷物拾わせて頂きます。」
「・・・すまんな。」
他の人間の荷に触れる前に一声掛けると言う小さな事にも気付ける人間。
素早く床に散らばったフロッピーを全て拾い集めると、緊張した面持ちでそれを私の前に差し出した。
「そ・・・それでは失礼致します!」
「今度はもう少し落ち着いて歩くようにするのだな。でなければ次に出会うのは・・・君の敵かもしれないぞ?」
こんな事私が言う必要など無い・・・無い事なのだが、何故かこの時口から勝手にその言葉が出てきてしまった。
それを聞いた少年は、嬉しそうに笑うと再度姿勢を正し敬礼をした。
「ご教授ありがとうございます!クルーゼ隊長!!」
元気な少年が入隊したものだと思いながら踵を返し自室に戻ってフロッピーを手にした私は、少なからず驚いた。
「・・・ほぉ。」
私が落としたフロッピーは一見ただの黒いフロッピーだが、注意深く見るとサイドに5桁のナンバーが刻まれている。
普通に落とした物を拾い集めたのならば、番号が順番に並んでいる事などありえない。
「まさか・・・あの僅かの間に彼はこれを見抜いたのか?」
フロッピーは30枚近くあった。
これを良く取り扱っている者ならばすぐにナンバーに気付き順番通りに拾い、並べるなどたやすい事だろう。
しかし彼は見た限り医局の人間、扱い慣れているとは到底思えない。
私はすぐに机に置かれている艦内通信機に手をかけある所へ連絡を入れた。
「クルーゼだが・・・医局勤務の人物について調書をお借りしたい。」
白衣についていた名札。
そこにはしっかり「・」と名前が入っていた。
「あぁ・・・確か、・と言っていたな。」
それから数日後、私は再びあの少年と顔を合わせる事となる。
私宛に届いた荷物が何故か医局へ回されてしまったと言う連絡を受け、すぐにこちらに届けると言うので持って来る人間を指名した。
「クルーゼ隊長失礼致します!!」
「あぁ・・・君か、わざわざすまないな。」
「そんな事ありません!仕事、ですから・・・こちら誤送されましたお荷物です。ご確認願います!」
荷物を差し出す手がやけに震えている。
「・・・寒いのか。」
「いえ・・・その・・・」
先日とはうって変わって顔色が悪く、良く見れば体も小刻みに震えている。
私は受け取った荷物を確認してから横に置いて机に肘をつくと、暫く彼の様子を伺った。
時折口元へ手を当てて横を向き、瞳は若干充血しているようにも見受けられる。
なるほど、慣れない勤務で体調を崩した・・・と言うわけか。
新人にはよくある事だが、体調を管理すべき医局の人間がそれを口にするのは、はばかられる・・・そう言う事か。
可愛らしい外見のわりに頑固・・・本当に面白い。
私の考えなど全く気付かず、小さく息を吸って呼吸を整えた彼は敬礼をして部屋を出て行こうとした。
「それでは僕はこれで・・・」
「いや、君には暫くここにいてもらう。」
「は?」
「そのような顔色でこの部屋から出すわけにはいかない。私が何か無理をさせているように思われては適わないからな。」
「いえ・・・その・・・」
「これは命令だ。私はこれから会議に出席する。その間この部屋の・・・そうだな、そこの棚にある書類を整理しておくよう。」
「整理・・・ですか?」
私が示した棚には種類も内容も全てバラバラにされている書類が山と積まれている。
その大半は主に不要な書類で、必要書類は数枚しか紛れ込んでいない。
その必要書類も既に内容は把握していて私的には不要な物だ。
彼が短時間でそれをどのようにまとめ、必要書類を探し出せるか・・・それに興味があった。
フロッピーの件が偶然かどうかを確かめる為にも・・・。
「医局の責任者には私の方から連絡を入れておこう。」
「は、はぁ・・・」
「それが返事か?」
「も、申し訳ありません!任務承りました。」
返事を聞いたと同時に部屋のロックを外し一歩外へ出たが、ふとある事を思いついて振り返る。
「あぁもしも私が戻る前に棚の整理が終わったら・・・ついでに部屋の掃除もお願いしようか。もしも終われば・・・の話だがね・・・」
「・・・分かりました。いってらっしゃいませ。」
「あぁ・・・行ってくる。」
今度こそ本当に部屋を出て軍法会議が行われる会議室へと向かった。
あの少年がどうしているのかと考えていれば、くだらない会議の時間もそう無駄にならなかった。
会議は予想より早く終った。これでは部屋も片付いていまいと思いロックを外すと・・・表情にこそ出さないが、見違えるように部屋が片付いていた事に驚いた。
「これはこれは・・・見事なものだな。」
指示して行った棚に入っていた書類は3つの山に分けられていた。
不要、必要・・・もう1つは恐らく私に指示を仰ぐべき書類だろう。
そして昨夜机で使用していたファイルは全て棚に戻され、その棚も綺麗に分類され片付けられていた。
「・・・ふむ、中々使えるようだな。」
たかが医局の人間と思っていたが、やはり彼は・・・並外れた記憶力と類まれなる処理能力を持った人間と見て間違いないだろう。
コーディネーターの中でもこれほどまでに使える者はそういない。
その時ふと人の気配を感じ奥の部屋へ足を進めると、床に一人の人間が倒れていた。
「なるほど、こちらの部屋を掃除しようとした所力尽きた・・・そう言うワケか。」
私は取り敢えず呼吸を確認すると、ある場所に隠すように置いていた薬の存在を確認した。
青と白のカプセルが入った・・・手の平に入るほどのケース。
「・・・まだ知られては困る物もあるのだよ、こちらの部屋には。」
薬を別の場所へ移動させると、床に倒れている少年の背に腕を通し抱き上げ・・・その瞬間感じた違和感。
・・・今まで私が不自然に感じていたある点が埋まった。
「・・・君は女性だったのか。・。」
ソファーへ体を横たわらせ毛布をその体にかけると、少年の格好をした少女の顔を覗きこみ側に置いていた一通の調書に手を伸ばす。
ずっと感じていた違和感。
同年代の少年と比べて・・・彼は体の作りが全く違っていた。
だがそれも女性だと言うのであれば全て納得が行く事だ。
しかし女性も軍に入隊している者は多いが、10代の人間がこのような所に配属される事はない。
しかも男装した女性が軍のトップクラスであるこの艦に乗り込むなど、あってはならない筈だが・・・実際彼女は男装して今迄何の問題も無く生活できている。
とすればやはり気にかかるのは調書に記されている・・・推薦者、ラクス・クラインの名。
「・・・これもまた何かの巡り合わせなのだろうな。」
数日後やってくるであろう『赤』の軍服をまとった5人のパイロット達の調書の一部を手に取り開く。
そこに記されている名は・・・アスラン・ザラ。
プラントの歌姫であるラクス・クラインの婚約者。
「・・・今は眠るがいい。」
目覚めた時から君の運命は変わる。
その後目覚めた彼女と話をして、全ての事情を聞きだした。
それらを黙認する代わりに、彼女に医局と私の秘書の兼務をするよう命令した。
彼女はそれを嫌がる事無く受け入れた。
私の独断による物だったので、暫くは表立って秘書として動く事は出来ないがそれに見合う仕事はしてもらうつもりだ。
最初は利用する為の駒だった。
それは今も・・・変わらない
変わらない・・・が、時折ふと目で彼女の姿を追う自分がいる事も、事実と認めなければなるまい・・・な。
第一印象隊長ことクルーゼ編。
何か・・・物凄くブツブツ切れた話で申し訳ない。
しかも何もかも謎だよこの人(TT)まぁそれも私の文章力の問題と言う気も・・・(小声)
取り敢えず隊長が秘書として何故ヒロインに声をかけたか・・・と言うのがちょっとでも伝わると嬉しいなぁと言うお話でした(苦笑)
使える・・・と思った事、手元に置いておけば何か面白い事が起きる・・・と思った事、そしてそれに自分も巻き込まれていく事になるとはこの時点の隊長は思っていません。
私の趣味で勿論巻き込むつもりです(笑)
隊長の秘書!と言う美味しい地位を使わずしてどうする(笑)